小説「ジェネラル・ルージュの凱旋」

 シリーズとしては3作目だが間に番外編の「螺鈿迷宮」もあり、何れも読んでおいた方が楽しめる。特にシリーズ2作目「ナイチンゲールの沈黙」とは同時進行になっており、知っていた方が「にやり」とできるところが多い。あとがきを読むとこの2作目と3作目は当初一本の作品として構想されていたものを分割したということだから、より「オイシイ」ところがこっちに来たのかな、という印象。そう、本作はものすごく面白い。
 1作目「チーム・バチスタの栄光」を映画化する際にばっさり切り落としてしまった要素、「大学病院内部のどろどろとした抗争」で構築されている本作は、延々会議と諜報合戦が繰り広げられていて、とても映像向きではないが、これが小説だとページをめくる手ももどかしいほどスピーディでスリリングに展開されて行く。ただし終盤に一大修羅場が用意されており、映画もそこまでをすっ飛ばさずに我慢強く描写して行けば最後にちゃんと映像的にもカタルシスを得られるだろう。もうすぐ公開の映画化作品がどうなっているのかは知らないけれど。
 このシリーズは常に「ミステリーか否か」が議論されているけれど、そもそも作者は自身が現場で抱く疑問点や憤懣を、ご自身が理想とするヒーローに体現させているのだから、ミステリーかどうかで評価するのはあまり意味がない。ちゃんと、現代医学が抱える問題点をエンターテイメントの体で作品化しているのだからそれで充分。読む方もそうした問題点がよく理解できて大変面白い。これまでの作品では「医療過誤」「死後画像検索」「小児医療」「終末期医療」「救命救急」と、いづれも経済的側面などから軽視されているが実はものすごく大切、という分野に光を当てている。延々繰り返される会議・対話で、採算優先や権力闘争優先の輩に、シンプルかつ本質的な「医療は患者のためにある」という命題を突きつけるヒーロー達の姿は、間違いなく作者が現場で叫びたい怒りを代弁させているのだ。それがひしひしと伝わる。
 相変わらずキャラクターは立ちまくりで、今回タイトルロール「ジェネラル・ルージュ」こと速水医師が惚れ惚れする。しかし一方で「行灯」と言われる田口医師も、ぼんやりしているようで決してただ人がいいだけの無能の人ではない。したたかで誠実。これは映画のキャラでもテレビドラマのキャラでも描けていない。映画から入ってハマってしまったシリーズだが、もう映画の方にはあまり興味はない。
 それよりも、この、ずっと作を重ねるごとに互いに連携し合って作品をふくらませていくという描き方はとても好みなので、もう既にだいぶ進んでいる続編や関連作品が早くどんどんと文庫化されて行くことを切望している。