架空全集 第九期

「私信 あなたに読ませたい十冊」

1「珠玉」開高健 文春文庫
2「枯木灘中上健次 河出文庫
3「細雪」上中下 谷崎潤一郎 新潮文庫
4「近代能楽集」三島由紀夫 新潮文庫
5「死の棘」島尾敏雄 新潮文庫
6「蛇を踏む」川上弘美 文春文庫
7「バルタザールの遍歴」佐藤亜紀 文春文庫
8「早く昔になればいい」久世光彦 新潮文庫
9「千年・あの夏」阿部昭 講談社文芸文庫
10「日本の行く道」橋本治

 友人からリクエストもらいました。「今のあなたの前に高校生の私が現れたら何を読ませるか」。おもしろい! 考えてみました。

 1 これはもう読んでもらいましたかね? もしかして。この作家最期の小説ですが、まさに珠玉の文章! この豊穣さは他に例を見ないですね。
 2 中上健次も読んどくべき作家ですよね。でもって、まず手始めとなればやはり最初の一作では。この粘っこさ、好き嫌いが結構わかれるとは思いますけれど。
 3 で、読んどくべきといえば谷崎の文章。これくらいの長さをじっくりしっかり味読してください。ここまで、まるっきり普通の高校生扱いしていませんねえ。
 4 更に三島の饒舌文体も。この短編集面白いんですよ。自作の能作品集なんですが、この作家の美意識が堪能できます。個人的には今やたらと「豊饒の海」四部作に挑戦したくなってるんですが。
 5 豪華な文体の連打から一転、陰鬱な世界。浮気を引き金に常軌を逸していく妻と、夫との凄絶な葛藤。読むのには気持ちに体力が要るかもしれませんが、この読後感は味わってみて欲しいです。
 6 川上弘美といえば「センセイの鞄」が何より有名ですが、この辺りを是非読んでみて下さい。藪で蛇を踏んだばっかりにとり憑かれてしまう。家に帰るとその蛇が人間のなりをして、メシ作って待ってたりして。さてさて・・・・。
 7 バルタザールとメルヒオールはひとつの体に存在している双子・・・・というところからいきなりとんでもない世界ですが、佐藤亜紀、面白いです! ヨーロッパの小説の翻訳と言われても信じそうなくらいには日本の小説らしからぬ質感を持っています。
 8 これはタイトル買いした本です。惹かれませんか? 死のにおいを漂わせながらひろがる甘美な世界。
 9 阿部昭は短編の名手なので、どれでもいいから読んでみて欲しいものです。まあ教科書を開けばどれか一作は入っていることが多いのでそれでも構わないのですが、これなんかは暖かなものから怜悧なものまで読めて良いのではないかと思います。
 10はなんだか教科書じみた題名ですが、僕は感銘を受けました。行き詰っている今の日本の、「どこから何がおかしくなったのか」を粘り強く検証しています。考えさせられました。
 あなたのことですから、多く語るよりちょっと読んでみてもらえばすぐ意図は察してもらえると思うのです。