架空全集

 がいこつさんと鳥猫さんがトライして下さった架空全集の内容を転載させていただきます。どちらもmixiでご記載なのでリンクでは読めないのですよね。

 まずはがいこつさん。
「半歩ずれた世界を旅できる物語全集」

 稲垣足穂一千一秒物語
 内田百輭「東京日記」
 佐藤春夫「西班牙犬の家」
 夏目漱石「霧」
 北村薫「空飛ぶ馬」
 友成純一「殺人餓鬼(ホラーフリーク)ショートショート
 フランツ・カフカアメリカ」
 杉浦日向子「百物語」
 石川淳「諸国畸人伝」
 赤瀬川原平超芸術トマソン

 見知ったはずの世界が少し視点をずらすことによって大きく様相を変えることを知らせてくれる作品群です。しかし、そのずらしは一歩では大きすぎ、半歩、少しひかえめに歩幅を調整した時に見えてくるものだと思えます。
 足穂、百輭、春夫はいうにおよばないでしょう。漱石の「霧」は「永日小品」の一編で、「夢十夜」と後のエッセイの文法を渾然一体とさせた文章が並ぶ中でも、留学先のロンドンで見通しのきかぬ白い幕に覆われた経験を書く本作は奇妙なぶれを読後に覚えさせてくれます。
 北村薫はこの日記でも折々紹介してきました「日常のミステリ」の名匠で、読み終わるとつい身の回りを再確認したくなる衝動に駆られます。友成純一北村薫とは別の意味で日常が即別の世界に連結していることを教えてくれる作家です。血と内臓と肉片が大丈夫な人はどうぞ。
 カフカはある意味、半歩ずらしの達人です。その中でも、読後感の爽やかな「アメリカ」を、推したいですね。
 マンガからは杉浦日向子の「百物語」を。九十九編集められた怪談は、普段時代劇などで見知っているはずの江戸の町を、怪に溢れていた世界に一変させます。
 石川淳の「諸国畸人伝」は、日本各地の無名の畸人を追った随筆作品で、読めば読むほど半ば薄暗く半ば明るい路地裏に踏み込んだ感覚を与えてくれます。
 最後の赤瀬川原平の「超芸術トマソン」は、その半歩ずらしを現実のものとして面前に差し出してくれる実証集です。


 しかし、並べてみましたものの、現代作家のあまりの少なさに、自分の限界を露呈してしまった気がします……


 続いて鳥猫さん。
まずはテーマ。やっぱり今いちばん興味のあることがいいと思うので、テーマは「世界の終わり」、または「その前後」。小説だけに限定しようと思ったのだけど、『渚にて』(ネビル・シュート)とか『地獄のハイウェイ』(ロジャー・ゼラズニィ)とか、いわゆる終末モノの名作をまだ読んでなくて数が集まらず、マンガも入れることにしました。
もちろん今まで僕が読破したものに限ります。

題して「世界の終わり全集:終末は君と」。

■『復活の日』(小松左京:長編小説)
インフルエンザに似た致死性の高いウイルスの流行により、人類はほぼ滅亡する。
生き残ったわずかな人々は、ウイルスの繁殖しない低温地域、南極に肩を寄せ合うようにして生きていた。しかし大地震の発生により、各国の核防衛システムが誤作動し、人類は2度目の滅亡の危機に瀕する。

ご存知、巨匠小松左京の初期の代表作。この作品で世界を滅亡させた小松左京は、この後、日本列島を沈没させ、東京を消失させ……、ってだんだんスケールダウンしてないか?


■『霊長類南へ』(筒井康隆:長編小説)
若き筒井康隆氏はこの作品について「ライフワークは人類の終末を描くこと。でももう書いちゃったから、これからどうしたらいいのか……」という名コメントを寄せている。
下らない理由から、散々なドタバタ騒ぎの末に核戦争で滅びてしまうという、人類のバカさ加減を描いた名作。
氏のほとんどの作品を高校時代に読んだお陰で、今の私がある。いったいどうしてくれる!!


■『世界の中心で愛をさけんだけもの』(ハーラン・エリスン:短編集)
あの「セカチュー」のタイトルの原型。YOSHIとかいうゲス野郎は、エリスンに印税の半分ぐらい支払う必要がある。
凶暴な狂気を宿すから人間なのであるという表題作と、核戦争後の荒廃した地上に住む若者と人語を解する犬との物語「少年と犬」は大傑作。「少年と犬」って、今気づいたけど、童貞少年の話なんだな。彼女ができると、男友達との友情は犠牲になるもの。君だったらどうする?って話。
もちろん、エリスンのことだから、過激な暴力描写満載。


■『地球最後の男』(リチャード・マシスン:長編小説)
こないだ公開された映画『アイ・アム・レジェンド』の原作。3度目のリメイクであるこの映画は「クズ」という噂を聞いたので未見。原作はSF史上に残る名作。

吸血ウイルスの蔓延により人類は全て吸血鬼と化してしまう。たった一人残った人類ロバート・ネヴィルは、一軒家に立てこもり夜な夜な襲い掛かる吸血鬼に苦しめられながらも、昼間は眠る吸血鬼に杭を打ち込み一人一人殺してゆく。

「世界の価値観のあり方」を見事に表現したラストは今でも衝撃。


■『ミレニアム』(ジョン・ヴァーリイ:長編小説 絶版)
遠い未来、人類は謎の奇病により絶滅に瀕していた。未来人は健康な人類を補給するため、「救奪隊」を組織し(ある理由から隊員は女性ばかり)、過去にタイムトラベルして、墜落寸前の旅客機から乗客たちを強奪し未来へ連れて行く。かわりに、病状の進んだ未来人を機内に残して(この作品が書かれた当時はDNA鑑定なんてなかった)。しかし、ひとりの救奪隊員が過去にあるものを忘れてきたために計画は破綻し始める。

タイムパラドックスSFの傑作。


■『デッドゾーン』(スティーブン・キング:長編小説)
5年にも及ぶ昏睡状態から目覚めた高校教師、ジョン・スミスは自分からは全てが奪われてしまったことを知る。母親はキリスト教の狂信者となっており、復職もかなわず、恋人は他人の妻となっていた。
しかし彼には人に触れると、その人の未来を予知する能力が備わっていた。
彼はある上院議員が将来、アメリカ大統領となり世界を核戦争で滅ぼすことを予知する。
一言で言うとこの作品のテーマは"Do your best"。とても悲しい話で、途中何回か泣いてしまったが、未来には選択肢があるということを教えてくれる。


■『ザ・ムーン』(ジョージ秋山:長編マンガ)
純粋な9人の少年少女たちが心を合わせた時に動く巨大ロボット「ザ・ムーン」。
地球の悪徳武器商人に利用されたことに怒ったケンネル星人は、猛毒のカビを発生する装置を地球に設置する。それにより、人類は滅びへの道を歩む。発生装置を破壊しようと9人とザ・ムーンは、装置の設置された山中に向うのだが……。

これ小学校の時、最終回を散髪屋で読んであまりの恐ろしさと悲しさに口がきけなくなってしまった。


■『サマタイム』(大島弓子:短編マンガ)
落雷で送電線が切れ、全戸にわたり停電してしまった過疎の村。
村人達が冷蔵庫の中のものを総ざらえして宴会を始める中、青年トオルは婚約者の実与子に会いに家を抜け出す。挙式も間近な2人は幸せいっぱい。しかしトオルは、彼らの式に出席する予定の友人で、新聞記者の信一が東京から帰郷していないことを知る。トオルは、まったく連絡の途絶えた信一を迎えに東京に向うのだが。

大島弓子さんがこんな作品を描くとは意外でした。
今ある日常が本当の幸せなのだと気づく作品。


■『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』(新井英樹:長編マンガ)
蚊でも叩き潰すかのように女子供も気軽に殺してしまうモン、モンに感化され次第に凶悪な連続殺人鬼と化してゆく、気弱な青年トシ。彼らは気ままに殺人を重ねながら、東北へと北上していく。同時に北海道では巨大な怪獣「ヒグマドン」が現れ、町を破壊し人々を襲いながら東北を南下していく。

「何故、人は人を殺してはいけないのか」「人間の原罪とは何か」という大命題に挑んだ作品。ラストは当時、ファンの間でも物議をかもした。


■『デビルマン』(永井豪:長編マンガ)
この作品、あらすじ要らないよね。後に上記の『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン』に影響を与えたと思える作品。怪奇マンガから、壮大なハルマゲドンの世界に突入する展開は圧巻。人間とは?愛情とは?様々な問題を提起する、永井豪最大の傑作。
この世界観、精神を完全に映像化したのは、史上最低のカス映画と評された映画版『デビルマン』ではなく、『東京残酷警察』なのであった。



ずいぶん駆け足になったけど、こんな感じかなあ。どうでしょ、43210さん?
あらすじは記憶だけに頼ってるので、間違ってたらすんません。

漫画家、佐藤史生さんの「ある作品」も入れようと思ったのだけど、ここに入れただけで思いっきりネタバレになるから入れられませなんだ。