拝啓 押井守様

 映画「スカイ・クロラ」、大変好きになりました。しかし、マスコミ的には「『崖の上のポニョ』と夏の2大アニメ話題作」と喧伝される割に扱いは随分と違いました。観客の評価も手放し絶賛の「ポニョ」に比べ、こちらは賛否相半ばす、といった感じでしょうか(ベネチアで共に賞を逃したことは、別にいいですよね)。
 好き嫌いが極端に出るというのは、僕はいいことだと思ってます。それだけ強烈な個性を放っているということです。ただそれはそれとして、批判意見が出ることについては、判る部分もある。監督は「若い人に伝えたい」ということを仰っていましたし、現代の若い人の気分を表現されたのだと思います。でも実際の多くの若者が、「わからない」「駄作」と断じてしまっている。これは無理からぬことだと思います。実際、この作品は実に現代の若者を捉えていると感じました。が、客観的に分析されたものを当事者が必ずしも同じように感じてはいないと思うのです。だから当の本人にしてみれば「はぁ?」ということになる。
 もうひとつあると思います。悔しいことですが、理解力の弱さ、読み取ろうとする粘り強さの欠如、というのが相当深刻だとも思うのです。
 一度見ただけで完全に判らないものは「できが悪い」と思っている向きがあります。出来損ないでそうなるものは論外ですが、僕は小説でも映画でも、そもそも一度読んだ・観ただけで全部わかる筈がないと考えています。「わからせようとするのは下衆だ」と言ったのは誰だったでしょうか、けだし名言だと思います。むしろ明言せず奥に潜ませたものが分厚く隠されていて、けれどもそれを見出すきっかけは繊細にちりばめられている。本作もそういう類の作品だと思っています。観終わったあとからじわじわと思索が広がり、それはいつ果てるともない。また観直したくなる。こういう作品が、永く残るのだと思います。
 一方を称揚せんがためにもう一方を貶めるという訳ではありませんが、作った本人が「子どものために作った」と明言している作品に、大人が寄ってたかって詰め掛け熱狂しています。別にそれ自体は悪いと思いません。子どもが良いと思うものを理解できるというのは大切なことです。でも、そういうのしか解らない、のだとしたら? その勢いで理解できない負け惜しみに本作を駄作と断じてしまう人が多いのは、「好き嫌いがハッキリしている」というレベルの問題ではなさそうです。
 本作のリアリティと繊細さを「一部マニアだけのためのもの」と言ってしまうのもそうです。負け惜しみです
 監督は、本作はこれまでのご自身の作品とは全然違うとお考えかもしれません。確かに相当違っているのだとは思いますが、本質的にはやはりこれはどこから切っても押井作品です。そして、それでいいのだと思います。僕はこれから原作を読んでみます。どうやら原作も読んだ方がより楽しめるし理解も深められるようですから。執筆順に、シリーズ全部読みます。無論、映画と小説は別物です。片方がないともう片方が判らない、というのではないと思います。でも両方を味わうことが、両方を更に深く味わえると思うから。
 いつまでも胸に残る作品になると思います。ありがとうございます。