『チーム・バチスタの栄光』映画・小説

全く別物な主人公二人

 過日書きましたが、映画で『チーム・バチスタの栄光』を観ました。楽しめました! なんだかテレビドラマ的な作りを感じましたが、しかし外科手術のリアルな表現などテレビの予算では到底実現不可能な代物でした。でも、直感がありました。原作はだいぶ違うんじゃないか? またぞろ比較好きの虫が。特に中盤と最後に出て来るソフトボールの場面。これは絶対原作にはないな、と思いきや、パンフレットを読むと、ちゃんとこれは映画のオリジナルと書いてありました。原作は上下2巻。映画観る前は少し躊躇しましたが、観た後では何のためらいもなく手にしていました。
 梗概は、大々的に宣伝されてるのでご存じかと思います。バチスタ手術という呼び名も「医龍」ドラマで浸透しました。極めて難易度の高い心臓手術で、成功率は60%ほどとか。その難手術を30例近くも続けて成功させている大学病院のチームが、3例続けて術死をさせた。不慮か医療ミスかそれとも故意か? というお話。まず一番びっくりしたのは、主人公の田口医師が原作では男性だったこと。ドラマ「ガリレオ」とおんなじことやってます。こういうところがテレビ的発想なんです。それはそれでいいんだけれど、原作の田口は、映画の竹内結子のようなただ人の良い平凡な医師ではありません。田口に限らず、登場人物は皆とても個性的で濃い。大学病院の権力闘争の裏地図など無茶苦茶面白いですが、時間の限られた映画でこういう要素が抜け落ちてしまうのは致し方ないことと思います。でも人物はみな単純化しすぎたと思う。田口のしたたかさは、怪物キャラ白鳥に伍すだけのことはあります。キャラクターがずいぶん違うから、ほとんどの人物が読んでいて映画の俳優とかぶらないから不思議です。たいてい映像で観たあと原作を読むと、演じていた俳優がちらついて困るのに、この作品ではそういう思いはほぼせずに済みました。映画の阿部寛版白鳥圭輔は、あれはあれで強烈なインパクトでしたが、原作を読んでいるとむしろ映画で人工心臓の技師羽場を演じていた田口浩正の方が適役だったように思います。
 ま、映画は別物だから違ってていいんです。その方が面白い。比較しがいもある。でもこの映画は、残念ながら原作のアウトラインをなぞっただけに終始してしまった観があります。先に挙げたソフトボールの場面のようなオリジナルのシーンもありますが、これは漫画的に過ぎて、浮いてしまっている。原作と違って映画では、田口と白鳥の力の差があまりに開き過ぎていたから、田口が最後に白鳥に精神的に一矢を報いる視覚的な画が欲しかった、という意図は判るのですけど。あんなの入れるくらいなら、原作にある事件後の田口の男前な行動をちゃんと入れて欲しかったなと思います。白鳥のイメージもあれでだいぶ変わるのに。
 映像ならではの演出もちゃんとあります。確かにこの方が目で見る映画なら劇的だな、という。そういうところは巧いと思う。でも、どうせなら原作でより深く味わいたい作品だと思います。作者である現役の医師が、現場で疑問に思ったり矛盾を感じたりしていることを、これでもかと問題提起している。そういう作品でもあると思うのです。面白かった! お勧めの順序は、絶対に映画→原作 です。