高杉と

以前の大黒正宗

 大学の友人高杉が、奥さんの里帰りでお盆に京都に戻ってくるのは恒例行事。来るといつも声をかけてくれる。会うと九州でなかなか探せない万年筆やジャズCDなどを見てまわる。もちろん彼が縁で知り合えた山本酒店に行くことも欠かせない。今年はすでに三宮巡りは息子と済ませたと言うので、まずは中山の「悲水そば いちから」さんに連れて行くことにした。彼はものすごく口が肥えているから食事に連れて行くのが本当に大変だが、ここなら大丈夫だろう。こちらのご主人は口数は少ないがテキパキとすべておひとりでこなされる。今日は一番客で、お蕎麦もおかわりさせてもらった!
 それから山本酒店へ。ご主人へは伺う旨お伝えしてある。高杉が言う東長の品評会に出す大吟醸がちゃんと冷蔵庫に並んでいるのを発見、今日はこれを買おうと話していたらなんとご主人そいつをひと箱惜しげもなく開けて、味見をさせて下さった。しかも比較だといって大黒正宗大吟醸まで! 瓶詰めした年度の関係もあるのかもしれないが、東長がより落ち着いた味わい。高杉はこちらに軍配。僕は好みでやっぱり大黒。でも旨いよなあ、これ、と、溜息をつきながら頂く。この日はもうひとつ「お初」があって、それはラベルが変わる前の大黒正宗純米酒。このラベルはネットでいつか見たことがあるが、実物を見るのは初めて。もちろん現在はもう流通していない。大黒が今のようになる以前のお酒で、やはり味わいが全然違う。でもスッキリとしたところは共通していて、これもうまい酒だ。これを高杉とふたり、お土産に頂戴してしまった。う〜ん、これは開栓できんなあ・・・・。
 おまけにこの日は杭瀬の商店街も案内して頂いた。昔ながらの商店街。豆腐の宮島さんがお休みだったのが残念だったが、ソバメシを食べたことがないという高杉のためにお好み焼き屋に入り、明石焼きとともに頂いた。これまた山本さんのおごり。今日もまた本当にお世話になりっぱなしで・・・・。高杉とは無縁ながら松林での「山本会」を25日でいきましょうかというお話もできた。真っ昼間から見事なヨッパライ二人完成。
 その後梅田に出てカッパ横丁の古本屋をひやかし、最後は(ナゼか)恒例阪急前のサンマルク・カフェへ。ものすごい人だ。「休み時間の教室みたい」と言うと「え?」。高杉の勤務校では休み時間生徒はみんな勉強をしててシンとしているそうな。こっちが「え?」ですよ。
 高杉にも結婚のことは言ってなくて、この日最初に報告した。ものすごく喜んでくれた。いつもこのサンマルクで最後に話になるのが「お前はよ結婚せえよ」だった。この日は「はよ子ども作れよ」になった。そう、僕の年齢で、しかもふたり子どもが欲しいとなったら、もう「ギリギリ」の線を越えてしまっている。高杉が子どもを持てというのはもうひとつ理由があって、それは教員という仕事をするなら是非自分自身の子を持っておかないと、ということで、それは僕自身もものすごく強く感じていることだ。
 わかれてからメールをもらった。僕は変わらないらしい。ここで言う変わらないは褒め言葉で、変わらぬ秘めた情熱を持ち続けたいと考え続けている高杉が、会うと原点である学生時代の気持ちを蘇らせることができる友人が僕だというのだ。ものすごく嬉しい言葉だった。原点に還ること。情熱を持ち続けること。挑戦を続けること。勉強の手を緩めぬこと。僕こそが、それを思い出させてくれる友人として彼に感謝したい。