退学

明日、うちのクラスでひとり退学者が出る。
とにかく何をするのも面倒くさいようだ。退学して、何をするということも一切ない。バイトさえ「何となく」行かなくなってしまっている。ただ家でごろごろしている。僕としてはとてもじゃないがこのまま放り出せやしないと思うが、渋々ながら母親も了承し、家庭の結論として出されては、もう何もしようがない。
今朝7時半に出勤したら、部屋で電話が鳴っている。慌てて鍵を開け、電気もつけずに電話を取ったらその彼からだった。今から行くから手続きしてくれ、と言う。先週母親から電話で退学の結論は聞いていたものの、あまりに急で、他の先生の手も煩わすから、放課後じゃないといかんのか、と訊いたら、バイトの面接があると言う。(ほう、バイトする気にはなったんか)と思いつつ、明日はアカンのかと訊くと、今度は明日はこの時間に起きられないと思うと言う。
実は頑張ればできないことはないと思ったが、同時に、担任にできることはもう少ないなと思っていたが、まず今ひとつあるなと思って、言った。
「今言って今、なんて、世間で通用すると思ってるのか。自分の都合しか考えられないのか。俺と約束してすると言ったことは何ひとつ実行しないくせに、自分のして欲しいことはそれか。今日しかないなら昨日電話して来い。無理だから、明日にしろ」
暫くしてから「はい」と答があった。まあ、「うざいなこいつ」とくらいにしか思われないだろうけれど。これからこいつがぶつかっていく世間の厳しさ冷たさの入り口の、ほんの砂利程度にもならないけれど。
最後は、明日会ったら家を出ろと言うつもりだ。女手ひとつで必死に養っている母の言い分も聞かず「俺の人生だ」と我を通すからには、手前の食い扶持は手前の甲斐性でなんとかするべきだ。よもやこの期に及んでまだおめおめと養ってもらい続ける気じゃあるまいな、と、言うつもりだ。
屁のつっぱりにもならないが、担任としてしてやれることは、もうそれくらいしか残っていそうにない。