違うもんだな

夏に高杉と会ったときに、それぞれ面白い本つまらん本の話をしていて、僕が辻仁成の「白仏」は面白くなかったと言った。最近になって高杉がこれを読んだらしく、パソコンのメールで「大変面白かった」と言ってきたのでびっくりした。
僕は高杉の感性を信頼している。畏敬していると言ってもいい。彼に面白いと勧められた本は、これまでどれもまちがいなく素晴らしかった(映画の評価はどうも合わないが)。
この作品は、1年くらい前に例の文芸の会でお題になったものだ。フランスで賞を取っている。戦中から戦後にかけての時代背景を巧みに取り込み、上手にまとめた話だとは思ったが、面白くはなかった。実話に基づいたもので、主人公は作者の祖父がモデルだ。だが「本当の話」だからといって作品の評価が上がるものではない。登場人物も魅力を感じない。キザだなあとは思った。とにかく「ふ〜ん」という感じでしかなかった。文芸の会では一部若い女性が「カッコいい」と評価された以外はみなさん「今回は失敗だったな」という口調で終わった。
それを高杉は「優れた作品」と言いきったのだ。この頃の辻仁成の作品には、文学と哲学があった、とまで言った。僕がこの作品と哲学という言葉が結びつかないと言うと、「それはちゃんと説明してもらわないと納得できない」と怒っている。う〜ん、言葉通りなのだが。むしろこっちが、どんな哲学があるのか、それをどこに感じたのか、教えてもらわないと納得できん。そういうメールを今朝送った。さてどんなお怒りの返信が来ることやら。
ふと興味が湧いて、これをおりえに読んでもらってみた。すると彼女の評価も低いものだった。(ここにちょっとだけ言及が。「あの本」というのが「白仏」のことです。http://d.hatena.ne.jp/oriemon/20041011#1097446669
辻作品はこれ一作しか読んでいない。他にはいいものもあるのかもしれないが、どうしてもこれが「名作」とは思えないんだがなあ。好き嫌いだって勿論あるが、どうも高杉の口調からは「そういう問題ではない」という感じがある。
人によってこんなに評価は違うもんなんだな。


(「白仏」とは、人骨で作られた仏像のこと。福岡在住の高杉は現物を見に行ったそうです。現物は僕も拝見してみたいと思っているのです。こちらで写真は見られます。http://www.linkclub.or.jp/~maca/myboom/reading/hakubutu.htm