ジャズを覚えた話(長いよ。今日はヘバってんのに)

大学生になってジャズにハマった。映画にほんの少し遅れて興味を持つようになった。共に「ぼのちゃん」という友人が引き金である。
高校卒業間際、古本屋で映画雑誌「ロードショー」を手に取って、次いで今は無き名画座大毎地下劇場で「ブレードランナー」を観たことが映画バカへの入り口であったが、この病原菌を一気に増殖させたのがぼのちゃんであった。大学の帰りに時間が早いと、たまたま当時東映が力を入れていたハリウッド名画のリバイバル上映に付き合わされた。そうやってボギーやバーグマン、ヒッチコックにとり憑かれて行き、今の僕がある。
ある時京都で飲んでいて・・・・その店はスクリーンで映画を流しているのだが・・・・そこで「ラウンド・ミッドナイト」をやっていた。ちょうどもうすぐ大毎でやるから観に行こうと思っていた映画だった。あまり見ないようにしていたがBGMは聴こえてくる。これにシビレた。「ラウンド・ミッドナイト」は落ちぶれたジャズマンと彼を庇護するフランス人の物語。主演のデクスター・ゴードンをはじめ、ハービー・ハンコックなど実際のジャズプレイヤーが大挙出演している。この映画こそが、僕のジャズ元年となる。今でもこのサントラを聴くと特別な空気に包まれる。特別な一枚であり、特別な映画である。
そこからはもうCD・レコードはジャズばかり買った。たまに違うのを買う時は映画のサントラ、あるいは映画を介して興味を持ったミュージシャンの音楽である。なんという偏り方!
ところが、店にはあまりジャズがない。レンタルには尚更ない。今でこそ名盤復刻はひととおり完了して、かつてマニア垂涎の一枚も難なくCDで手に入るが、あの頃はまだまだそういう状況にはなかった。中古屋や輸入版ショップをあさり、昔買ったきり奥に突っ込んであった「ルパン」のジャム・トリップ・シリーズというのまで引っ張り出して聴き入った。ぼのちゃんがよくカセットを貸してくれた。彼はトロンボーンファンで、ちょっと僕より偏りがあった。
そんな時みつけた本がある。後藤雅洋「ジャズの名演・名盤」(講談社現代新書)である。
後藤氏はジャズ喫茶の親父である。ジャズ喫茶の親父といえばジャズファンの間では寺島靖邦氏が神様であるが、僕は寺島氏はあまり好きではない。キャラクターは愛すべきものがあるのだが、言うことに一貫性がない。というか、一貫性のないことを言って奇をてらっている向きがある。一貫性があるとすれば、メロディ重視の甘口派という処か。
対して後藤氏はカタい。頑ななガンコ一徹親父である。だからそこに反発する人も当然いるだろう。前述の著も、読んでいて「何言ってんだコノヤロー」とか「誰がンなこと決めた」とか思うかもしれない。が、一貫して彼はストイックにジャズの「本質とは」というところを模索している。だから言ってることに責任を持っている。信頼できる。まあこれも単にたまたま好みが一致していただけなのかもしれない。所詮音楽鑑賞なんて嗜好の世界だ。でも後藤氏はそれを許さない。好みで聴くなと言う。ジャズ鑑賞は修行かい! と思うが、それほどまでに真摯であるのだ。ジャズが好きで好きでたまらないのだ。そこがかわいい。
とにかく彼が「これ」というアルバムを聴けば「そう、コレ!」と思う。この一致は奇跡かもしれない。村上春樹が若い頃ジャズ喫茶をやってたくらいのジャズファンで、和田誠と二人でジャズの本を出しているが、彼とは全くと言っていい程好みは合わない。好きなプレイヤーの中でも「これ」という時期やアルバムの好みがズレる。後藤氏の場合そういうことが本当に少ない。
これは、ジャズ初心者にとってはありがたいナビだった。だから僕は、これからジャズを聴こうと思うのだけどという人には必ずこの本をお勧めすることにしている。もしかしたら僕が村上春樹や寺島靖邦が合わなかったように人によっては彼の指針は合わないということも当然あるだろうが、僕は僕のジャズ観を信じるしかない。
そこでlibra55さん。僕がお勧めするプレイヤーやアルバムの多くはこの本や後藤氏の他著に出てると思いますので、もし古本屋なんかで見つけられたら「出会ったのだな」と思し召してご一読なさることをお勧めします! 実は今日のこれを書こうと思い立ったのはlibra55さんに好きなジャズアルバムを挙げて欲しいと言ってもらったことからなのだ。
で、肝心の好きなアルバムだが、これが困った。映画でも小説でも、そう言われると出てこなくなる。ありすぎて、却って構えてしまうのだろうか。
だから今これから幾つか挙げるのは、たまたま今思いついたもの、というに過ぎない。「オールタイム・ベスト」というのではない。


リスト行きます。
テナーサックスならソニー・ロリンズが一番。ブルーノートの「ソニー・ロリンズvol.1 vol.2」「ヴィレッジ・バンガードの夜」「ワークタイム」「サキソフォン・コロッサス」。
ジョニー・グリフィンも外せない。ロリンズの「ワークタイム」に入っている「イッツ・オールライト・ウィズ・ミー」という曲を同じドラムのマックス・ローチで演っているアルバム「イントロデューシング・ジョニー・グリフィン」で聴き比べるのが好き。聴き比べといえばテナー奏者が他にジョン・コルトレーンハンク・モブレーと3人も一緒に吹いちゃってワヤになる「ブローイング・セッション」でどれが誰の音色か聴き分ける遊びも好き。
そんなオタクな遊びにはついていけませんね。では(ギターのウェス・モンゴメリーのリーダーアルバムだが)「フル・ハウス」でライブの熱気を。
名前が出たのでやはりテナーといえばジョン・コルトレーンなのだろうから彼も。一番好きなのは「至上の愛」でも「バラード」でもなく「ジャイアント・ステップス」。「バラード」も好きだけど、あれは本当にたま〜に聴くと良い。むしろバラード曲集なら、案外「ラッシュ・ライフ」がいい。違うプレイヤーの演奏になるが、このコルトレーンを追悼したライブを収めた「トリビュート・トゥ・ジョン・コルトレーン」というアルバムが好きだ。今はなきライブ・アンダー・ザ・スカイでの一幕。デイブ・リーブマンのバンドに大御所ウェイン・ショーターが参加してのブローイング大会。圧巻です。
ハンク・モブレーは好きなのに、リーダーアルバムでどれがイチオシ? と訊かれると、はて。でも「モブレーズ・メツセージ」かな。意外とサイドでいい演奏してるよな。
デクスター・ゴードンなら「ゴー!」「ゲティング・アラウンド」。
スタン・ゲッツはいろんな顔があるがチック・コリアの入った「スゥィート・レイン」が好き。
アルトになると何はさておきチャーリー・パーカー。パーカーなら何でもいいが、まあ晩年の「ナウズ・ザ・タイム」が聴き易いか。
ジャッキー・マクリーン「プレイズ・ファット・ジャズ」「ジャッキーズ・バッグ」「デモンズ・ダンス」。
アート・ペッパー「サーフ・ライド」「マティ・ペイチ・カルテット」。
キャノンボール・アダレイコルトレーンとの競演「クインテット・イン・シカゴ」、MJQのミルト・ジャクソンとの競演「シングス・アー・ゲティング・ベター」、そしてアダレイのと言うより実質マイルス・デイビスのアルバムだがやはり外せない名盤中の名盤「サムシン・エルス」。
エリック・ドルフィー「アット・ザ・ファイブ・スポットvol.1」「アウト・ゼア」。
トランペット。クリフォード・ブラウンマックス・ローチとの双頭コンボは全部。あえて挙げれば「スタディ・イン・ブラウン」かな。ラッパの音色は誰が何と言おうとブラウニーが一番。彼が急死した後の再生マックス・ローチ・バンドの「マックス・ローチ+4」もいい。
それにブラウニーに代わって参加したのがケニー・ドーハム。ドーハムのリーダーアルバムなら「カフェ・ボヘミアケニー・ドーハム」「アフロ・キューバン」。
フレディ・ハバード「オープン・セサミ」。
マイルス・デイビスは幅広すぎて難しい。まあ「サムシン・エルス」中の「枯葉」と聴き比べるために「マイルス・イン・ベルリン」、そして有名盤「ラウンド・アバウト・ミッドナイト」を。
ドナルド・バードなら「ハーフ・ノートのドナルド・バードvol.1」。
アカン、ほんまキリがない。有名処は飛ばします。
ピアノ。ホレス・パーラン「アス・スリー」。ビル・エバンス「アンダーカレント」。フレディ・レッド「レッズ・ブルース」。ウィントン・ケリー「ハーフ・ノートのウェス・モンゴメリーウィントン・ケリー」。キース・ジャレット「スティル・ライブ」。チック・コリアはヴァイブのゲイリー・バートンと競演した一連のアルバム。ミシェル・ペトルチアーニ「イステイト」「ハンドレツド・ハーツ」。ソニー・クラーク「リーピン・アンド・ローピン」。あ、やっぱり「クール・ストラッティン」も。やっぱセロニアス・モンクもだなあ。多すぎるけどシンプルなとこで「モンク・トリオ」(プレスティジ盤)。
漏れてた。トロンボーンカーティス・フラー「ボーン・アンド・バリ」。バリトンサックスのジェリー・マリガン「マリガン・ミーツ・モンク」「ナイト・ライツ」。
もう根気が尽きた。読んでる人があればもっとよっぽど根気があるね。アート・ブレイキーは改めて別項を設けなきゃ、ジャズ・メッセンジャーズはとても収まらない。
お付き合いゴクロウサン!