映画 「イノセンス」

これは、観た方がいい。


演劇部がお昼過ぎには「もう帰る」と言い出した。一時間以上経つのに二人しか集まらないのだと。主顧問になった以上、ちょっとこの連中のだらしなさには言いたいことがあるが、実は今日に限っては渡りに船。共済組合でとった施設利用券を毎年度余らせているのだが、今年はよく使ったもののあと2枚ある。期限は年度末、明日、明後日。これを使ってしまおう。よし、映画だ。


イノセンス」はアニメーションである。どうも世間では、ディズニーとジブリ作品はアニメではなく、そしていわゆる「アニメ」はオタクのものとして軽視・排斥されている。へんな話だ。僕はオタクなのでどうでもいいことではあるが、ただ残念ながらアニメ・漫画については皆目知識がない。それでも気になっていたのだから、これはアニメとしては一般で注目されている部類なのだろう。
ちょうど今アニメ好きな生徒からメールがあってこの作品の水準の高さと、対して世間の目の冷たさを嘆いているところなのだけど。
攻殻機動隊」という漫画を僕に貸してくれたのは一体誰だったのだろう。漫画を読むのがしんどくなってきている僕には特に読みにくい漫画であった(いちページめくればわかります。情報量が多すぎるのだ)が、その内容・発想・人物造形・ユーモアにいっぺんに惹かれてしまった。それを映画化したものの、これは続編である。
前作映画「攻殻機動隊」は、しかし原作の複雑なストーリーをざっくりとそぎ落とし、のみならず登場人物の性格、作品全体のムードを全く違うものにしてしまった。そこがまたものすごく気に入った。どうせ映画化するならこうでなきゃいけない。もともと完成した形を持ったものを何故再構築するのか? 原典を完全に再現、なんて、全く意味がない、と、僕は思っている。(まあ例えば時代や国を全然違うところに移し変えて、でもテーマは同じ精神を目指す、とかいうことなら面白いけれど。)どうせ作り直すなら、作り手独自の視点、テーマでなくては、と思うので、いわゆる「原作ファン」が気分を害するような試みほど僕には楽しくてしょうがないのだ。その意味で、映画「攻殻機動隊」は完全に映画監督・押井守の世界に摩り替っていて痛快であった。原作・映画ともに気に入っていた。
原作は原作で最近続編シリーズが再開していたらしいが、今回の映画「イノセンス」は、原作とは全く無関係に映画編の続編として制作された。これはもう、原作のアイデアと設定を借りた、完全なオリジナル作品である。
開巻から、圧倒的な映像の迫力である。実写映画でも高度なCG技術の発達によってほとんど映像化できない世界がなくなってきたとは言え、やはりまだ完全に違和感がなくなったとは思わない。やはり、アニメにしか描けない世界というのは厳然として存在する。アニメはアニメで、いわゆる「アニメ絵」とリアルすぎる「CG画」が同居するとそれはそれで違和感があるものだが、この作品では殆どそれを感じない。とにかく、凄い。普段あまりアニメを観ないせいなのかもしれないが、まずその迫力に気圧された。
次にムード、そしてストーリー。台詞が難解、と聞いていたが、別にそうは思わない。確かにカッコつけのこけおどし的な部分もあるが、殆どの会話の断片に、激しく脳が刺激される。「人間存在の本質」「幸福とは」そういったかなり本質的な問題意識を刺激しまくる。そして最後に主人公が胸に落とす感情が、かなり切なく響く。できればここは原作→前映画→本作、と観ていただいた方が美味しいとは思うけれど。
これは押井監督の集大成なのではなかろうか? と言うほどこの人の作品を観たわけではないけれど。と言うか、これの前作、そしてはるか昔の「うる星やつらビューティフル・ドリーマー」、そして実写作品「アバロン」しか観てないのだけど。実は、この監督で「ルパン三世」を作るという企画があった、という話を僕は知っているのだ。しかし結果的には企画は流れてしまった。「人間存在の不確定さ」といったテーマを追求し続けるこの監督の脚本が、考えてみるまでもなく国民的ヒーローシリーズに合う訳もなく、これは流れるべくして流れてしまったお話ではある。しかし、個人的には観たかったなあ、押井ルパン・・・・。
話が逸れたように見えるが、少しはこの作家の目指すところがイメージされたのではないだろうか。テーマ性と、映像の革新性に賭ける部分で、絶対宮崎駿に引けをとらない映像作家だと思うのだがなあ。ただし、そのこだわりようは、これはもう「オタクの権化」と言っていい。前言をくつがえすようだが、彼と彼の作品は、その徹底したこだわりようから「キング・オブ・オタク」である。間違いない。その意味で「オタクといって差別するな」との言は取り下げなくてはなるまい。しかし、オタクだから、とけ蔑視して観ずに通り過ぎる者は哀れである。愚かである。エンターテイメントとしても文芸としても、かなりの水準にあることは間違いない。本当に、脳みそ刺激されまくりですから!


これは、観たほうがいい。


あ、写真は何の関係もありませんから。これ、なんだと思う?