ギムレットに正解なし

 過日小説『長いお別れ』のレシピ通りのギムレットを作って貰ったということを書きました。ギムレットというカクテルは、レシピのシンプルさとやはり「シェイクする」というところがかなり難しいカクテルだそうです。
 バー・キースのマスターは、出来上がったギムレットに細かな氷片が入っているのは本当は良くないとおっしゃいます。実際、マスターのギムレットには氷片は混じりません。あれだけシェイクしているのに、回し方で氷の角を丸くするのだ、と仰るので、相当な技術なのだと思います。こにしのマスターは殆どシェイカーを振り回しません。曰く、がちゃがちゃ派手に振ってシェイカーを壊してしまうような人もいるが、それは間違い、と。
 一方で、先日頂いたバー・オークスドラムのギムレットには、たくさん氷片が入っていました。もともとハードシェイクのマスター。このマスターのカクテルが僕は好きです。全体にオールド・ファッションド。今回、シェイクする直前の手指にひときわ気合が入ったのを見逃しませんでした。「今日はいつにも増してハードシェイクなのでは?」と伺うと、これは猛暑バージョンなのだとか。とびきり暑い日のギムレットには、涼感を出すために意識して氷をぶつからせて氷片が入るような振り方をされるそうです。これもまた、高等技術であり、それ以上に心配りですよね。
 バー織田さんでは、あえてシェイクしない、ステアによるギムレットというのも頂きました。とろりとして、これはもう別物とも言える味わいでした。
 工夫と技術と心遣い。これ全てプロの矜持なのでしょう。